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絶対階級学園 PS Vita 感想・考察

Daisy2による全年齢乙女ゲーム『絶対階級学園』のPS Vita版をコンプリートした感想・考察です。

 

絶対階級学園 - PS Vita

絶対階級学園 - PS Vita

 

そこは絶対的階級制度の学園だった──

特権階級に属する良家の子女のみを集め、未来の日本を担うエリートの育成を目的として創設された全寮制の名門校「私立櫂宮学園」。

主人公・藤枝ネリは、突然失踪した父の置き手紙に従い、セレブが集まる学園へ転入することに。

しかしそこは、絶対的階級制度に基づく身分差別に支配された学園だった。

想像を絶する格差社会の中で出逢う「恋」、次第に浮かび上がる学園の「真実」とは……!?

 

まずはネタバレなしの感想。

アマゾンのレビューが高評価だったのと、花より男子みたいなセレブ学園を舞台にした身分違いの恋…を想像して興味が出たので購入。いざプレイしてみたら、いい意味で!見事に裏切られました。

上のアマゾンの商品詳細ページにあったあらすじだけだと少し足りないのでもうちょっと深く説明すると、

一緒に住んでいた父親が失踪し、家は火事で全焼し、全寮制のセレブ学園に転入することになった主人公のネリ。しかしその学校は、生徒を階級制度によって隔てるヤベー学校だった…!

階級は、貴族の薔薇階級、平民のミツバチ階級、奴隷の石ころ階級の三つ。階級は三ヶ月ごとのお茶会で生徒の普段の行動に応じて不規則に変動する。

ミツバチ階級として入った主人公は薔薇階級になるのか、石ころ階級になるのか、そして周囲の個性豊かなイケメンキャラクターたちと主人公の関係はどう揺れ動くのか…!?

というのが表向きの説明です。あるところまでプレイしていくと、新たなルートが開かれ、そこで学園やキャラクターたちの過去など、より真実に近づくストーリーをプレイすることが出来ます。

 

とにかくこのゲームは攻略キャラクターとストーリーが素晴らしいです!

正直乙女ゲームって、複数いるキャラクターのうち、大抵どれか一人もしくは二人に肩入れしてしまい、それ以外のキャラクターに関しては、まあ別にどうでもいいかな…となってしまうのですが、今回このゲームはマジで全員好きになりました。(もちろんその中でも、一位二位とかはあるんですが…)

おそらくキャラクターひとりひとりの好きなもの、嫌いなものなどのプロフィールはもちろん、過去・現在・未来までしっかり作り込まれているからでしょうね。それぞれの行動にきちんと一貫性があるというか。

プレイを進めていくうちに「あそこでああいうこと言ったのは、こういう背景があったからなんだ~!」と目からウロコが落ちる体験を何度もしました。で、知れば知るほどキャラクターへの愛着が深まるし、絶対この人を幸せにしてあげたいって思うという…

ストーリーも素晴らしいんですけど、何言ってもネタバレになりそうなので何も言えない…とりあえず花より男子よりはだいぶダークでバイオレンスです。ハートフルボッコです。

イラストもきれいですね。和田ベコさん、素晴らしい絵師さんだー。

ただ、主要キャラクターたちの顔は丁寧に描き込まれてるのに、制服の描き込みは結構雑だな…と感じました。薔薇とミツバチのブレザーのライン部分とかガタガタ…

音楽はあまり印象に残っていません。もはやこれは操作性の話ですが、エンディングのスタッフロールスキップしたいのに出来なかったのはきつかった。

 

 

ここからネタバレあり感想です。

プレイ前の気になるキャラは

五十嵐ハル>鷹嶺陸>七瀬十矢>加持壱波>鷺ノ宮レイ でした。

元々ショタ系、年下系が好きなので…

で、いざプレイしてみた後の好きなキャラは

五十嵐ハル>鷺ノ宮レイ、七瀬十矢>加持壱波>鷹嶺陸 でした!

ただ、上でも言ったように全員すごく好きです。そしてその中でも特に上位三人はガチです。ハルに関してはコンプリート後も名残惜しすぎて、グラフィックやシーンを何度も見返しました…好き…

 

まずは全体の感想と考察。

散々言われていることですが、本当にお話がよく出来てる!と思いました。

最近だと同じようなミステリー・サスペンスものの乙女ゲームとしてカラーマリスをやってて、カラマリがいまいち地に足の着いていない、現実感のないふわふわした話だと感じたのに対し、絶対階級学園は、もちろん現実味は薄いものの、物事の辻褄はきちんと合っており破綻もなかったので、プレイしていて納得感が得られました。

辻褄をきちんと合わせてきたからこそ、洗脳・人体実験・宗教組織・軍事利用等の、一見荒唐無稽にも思える仰々しいキーワードが孕む狂気を最大限に引き出せていたと思います。同時にそれは鏑木の所業の異常性を際立たせることにも繋がり、プレイヤーは主人公と一緒に鏑木に対して嫌悪感を感じるという。

構成もいいですよね。主人公が薔薇になるルートと石ころになるルートを用意して、石ころルートをクリアすると真相ルートに行けるようになる。

薔薇ルートではこの学園が抱える「階級制度」という異常な概念によって、主人公や攻略キャラクターたちが歪んでいく、一風変わったダークなラブストーリーを見ることが出来る。

石ころルートでは、キャラクターと紆余曲折ありながらも結ばれるピュアなラブストーリーを見ることが出来る。

そして真相ルートでは、結ばれてからの二人が学園の真相に立ち向かっていく様子を見ることが出来る。謎解きフェーズでありながら、既にカップルになっている二人が主軸なので、合間合間にラブシーンが入ってきても違和感がなく、まるでファンディスクでもプレイしているかのような感覚で楽しむことができる。真相ルート後半では階級制度が崩れて、これまで散々感じてきたフラストレーションから解放されるし、かつ、真相を知りキャラクターへの愛着も一層深まる。もちろん騒動後の未来の二人の補完もばっちり。

まさに一粒で三度美味しい。大満足が得られる構成だと思いました。

真相ルートは金太郎飴って意見もちらほら見ましたが、私は全くそうは感じなかったな…スキップできなくて不便なところもあったけど、目くじら立てるほどではなかった。

また、推測ですが、このゲームはキャラクターほとんど全員に有名な童話か小説、何らかのモチーフがある気がします。

たとえば、愛したけど想いが実らなかった女性の幼い娘を引き取って自分好みに育てる鏑木のモチーフは「光源氏」でしょうか。彼も(父親の再婚相手である)藤壺の宮に恋をしましたが成就せず、藤壺の姪である若紫をさらって自分好みの教養のある美しい女性に育てました。さらに言えば、若紫だけでは飽き足らず女三宮(この人も藤壺の姪)をめとり、若紫に愛想を尽かされるところも、鏑木、マリア、ネリの関係に通じるところがあります。

マリアとネリのモチーフは「王子とこじき」かな。瓜二つな双子の入れ替わり。(王子とこじきは陸のモチーフにもなりえそうですが…)

また、キャラクターにモチーフがあると同時に、このゲーム全体にもモチーフがあり、それはつまり「シンデレラ」でしょう。ある時間をすぎれば魔法は解けて、馬車はかぼちゃに、衣装はぼろに。ガラスの靴(ではなく電子手帳)を持って助けに来た本当の王子様は、ひょっとするとネリの方だったのかも。

他の攻略キャラクターのモチーフについては後述します。

 

続いてキャラ毎の感想(考察?)です。

鷹嶺陸(CV 浪川大輔

高飛車ツンデレっぽいビジュアルやセリフが目立っていたので注目していたんですが、いざプレイしてみたら思ったよりも愛すべきおバカさんで裏切られました…しかしこれはこれでアリ。

薔薇ルートでは完全に頭がお花畑で見ていて微笑ましかったです。主人公が学園の影の支配者になっていく展開は意外でした。石ころルートではゴミ捨て場で思いが通じ合う様子がピュアで素敵だった。

あと陸のネーミングセンスが独特っていう設定が結構ツボでした。テディベアを「荘厳なる沈黙」って名付けるシーン、マジで!?と思いながら笑ったし、それに対して主人公がテディベアを大真面目に「荘厳なる沈黙」って呼んでるのにも笑った。

陸は本当に普通の男の子で、過去の辛い経験からお金持ちになりたいという思いが強くて、だからこそ赤薔薇に任命された、という設定はいじらしくて切なかった。真相ルートのバッドエンドを見て「裸の王様」モチーフなのかなと思いました。陸の過去に「王子とこじき」の本が出てきたので、それかな?とも思うけど、「王子とこじき」はむしろ主人公とマリアのモチーフな気もするので。

三年後の教員を志してる姿は意外だったけど、納得感もあり。傲慢な裸の王様から、等身大の真面目で善良な青年になっていったことを思うと、感慨深いものがありますね。

 

鷺ノ宮レイ(CV 木村良平

優雅で高貴なレイと、非情で冷酷なショウによって成る二重人格。作中で壱波から指摘があった通り、「ジキル博士とハイド氏」モチーフでしょう。

そして、攻略制限がかかっていたところから見ても、このゲームのトゥルーエンドはおそらく彼とのエンドでしょうね。

優雅で高貴な王子様なのに実は機械オタクってギャップに萌えました。

薔薇ルートはマジでしんどかった…嘘を重ねてく主人公の姿がみじめすぎて、何度かプレイをやめようかと思いました。意外にも優しい結末だったので驚きましたが。そしてバッドエンドの主人公を自分の人形呼ばわりするレイ様には正直興奮した。しっかり鏑木の血を引いてる……

真相ルートのショウと人格統合してから大胆になったレイ様かっこよかった。この真相ルートでは攻略キャラクター全員が、(断薬の効果とは言え)階級制度の垣根を越えて協力し合う姿がとても良かったですね…。

普段私はこういった物腰の柔らかい王子様キャラはあまり好きにならないんですが、レイ様だけは別でした。何ていうか、シナリオの完成度の高さに、有無を言わさず横っ面張り倒された感じ……おそらく人気が最も高いのは彼なのでは。

攻略サイトの忠告に従いレイ様ルートは石ころも真相も最後にプレイしたのですが、そうして本当に良かったです!確実に一番最後にプレイすべきルートですね。

レイ様の母親は心から鏑木を愛していたんだろうな……可哀想だな……死の間際に愛する息子を鏑木に託した母親の気持ちを考えると心痛む。

 

加持壱波(CV 柿原徹也

はい来た問題児。彼に関しては賛否両論ありますね。

利己的で他人の評価に流されやすい。自分の立場を守るためなら主人公に暴力もふるっちゃう。一方で主人公に嫌われるのも恐いから、後から影でご機嫌を取るように話しかけてくる。ここまで卑怯なキャラも乙女ゲームの攻略キャラにおいては珍しい。

そんな彼ですが、私はあまり嫌いじゃありませんでした。人間臭くてむしろ好きです。モチーフはもちろん「ハムレット」。

真相ルートの彼は、階級制度に囚われていた自分の殻を打ち破ったこともあってか、スッキリしてていいですね。主人公も言ってましたが、状況を見て賢くピンチを切り抜ける姿は小気味よくさえありました。

真相を知って、女の子をもてあそんでは裏切る行動の理由にも納得。妹を見殺しにした過去は…正直きつい。偽の妹(名前忘れた…)との決別のシーンはなかなか良かったです。三年後仕事現場で再会したようですが、普通に偽の妹の方、壱波くんのこと好きになっちゃうんじゃないか。

 

七瀬十矢(CV 前野智昭

いやーもうほんと……かっこよかった……好き……

個人的には石ころルートの、薔薇寮から深夜に出てくるレイ様を二人で待ち構えているシーンで、「こうして二人で一緒にいるとなんかドキドキするね……これって友情が深まるってことかな?」「そうだな。俺らマブダチってとこか」って言い合うのが萌えました。天然で素直な二人だから波長が合っててすごくいい感じ。かわいい……

十矢は主人公が石ころになったルートでは常に優しくしてくれる、心のオアシス的な存在でしたね。正義感が強くてまっすぐで、リーダーシップがあって、弱いものいじめは見逃せない、優しい性格。だけど、心が弱い人には徹底的に厳しい。その理由も真相を知って納得でした。

正直、このゲームの攻略キャラクターの中では一番の大物。他のルートにおいても、常に他の攻略キャラクターに敵意を持たれていたのは、彼の強さに気付いていたからでしょうね。

っていうか薬漬けで洗脳されていた状態にもかかわらずきちんと疑問を持ち、反抗し続けていたガッツがすごい。信念なんて曲げて流される方が圧倒的に楽なのに、決してそれを選ばないところがすごい。本当にかっこよすぎ。好き!!結婚して!!!

このルートでもレイ様以外の全員と協力する姿が見られますね。階級制度撤廃を目指していた十矢の悲願が、ある意味達成された瞬間でもあります。壱波、陸、ハルを励まし、壇上で演説をして皆を鼓舞する十矢マジかっこよすぎた。あとさり気なく壱波が陸を苗字で呼び捨てにするシーンは笑った。

三年後はボランティアに馬術部に弁論部に司法試験にと忙しくしてるようだけど、これそのまま行ったら総理大臣にでもなるんじゃないか。

勝手な推測ですが、強い信念を持っていること、階級制度撤廃のために秘密のグループを作り夜中の会合を重ねていること、最終的に弁護士になることから、モチーフは「レ・ミゼラブル」のマリユスな気がします。

 

五十嵐ハル(CV 石川界人

ハルきゅん……今回のぶっちぎりナンバーワンです。元々ショタ好きなのでど真ん中どストライクでした。モチーフはもちろん「ハムレット」のオフィーリア。

とにかくビジュアルもいいし声もいい。無口で無気力で冷たそうなビジュアル。(制服姿の立ち絵のネクタイ)透明感がありつつも思春期ゆえの複雑な心情を覗かせるほどよいショタ声!

と言いつつも、後半何だかんだで主人公のためを考えていろいろしてくれるのもいい。萌えしかない。

ハルのバッドエンドは全部本当に辛かった…!(薔薇ルートに関してはハッピーエンドもめっちゃ辛かった。)石ころ、薔薇ルートともにバッドエンドにスチルがあるのはハルだけでは?そして両方共美しく、衝撃的なスチルでした…

そして描写が全部生々しくて、痛々しい。エンドロール見てて気付いたんですが、どうやらハルのルートだけシナリオライターさんが喜屋武米助さんという方みたいです。その方の味なんでしょうか、痛々しくも印象に残るシナリオではあるので、すばらしい力量なのは間違いないですね…。

石ころルートはほぼ水恐怖症なハルの介護でしかないので、「ん?」と思う点もあるんですが、まあ介護を通じてよりハルへの愛情が深まるというか…

何にせよ全てを乗り越えた上での「水温む」エンドは個人的にこのゲームのぶっちぎりナンバーワンエンドでした。ハルが父親の愛情を信じることが出来る結末。ハルの涙に濡れた綺麗な顔や、主人公との「奇跡って言うんだよ」ってやり取り、ラストの主人公によるモノローグも含め、まるでひとつの詩のように美しく、完成されたエンディングでした。感動のあまり何度も見返しちゃったよ。

 

その他

陸の真相ルートの玖珂兄妹は好感が持てるキャラクターでした。石ころ落ちした兄がとぼけた性格なのがいい。そして血がつながってないと分かりながらも妹を心配し、森まで追いかけていく兄と、最後にその兄を頼りにする妹、二人の姿は泣けた。

この二人にはどんな過去があったのか気になる。このゲームでは、レイが0番、七瀬十矢が70番、壱波が18番、五十嵐ハルが50番というように、施設での番号がキャラクターの名前に反映されています。二人は玖珂真一と玖珂参月なので、91番と93番?あいだの1人が抜けていますね。意味ありげです。

また、壱波のルートは萌花との絆が強くなるルートでもありますが、萌花にはどんな過去があったんだろう。八木沢萌花なので名前から考えて施設では8番だったんだろうな。三宮摩耶子さんは3番?早い!

 

 

一粒で三度美味しいゲーム、と上述しましたが、そうは言いつつも「これだけじゃ満足できない!攻略キャラクターたちと主人公のその後がもっと読みたい!」となおも思ってしまうのは、絶対階級学園が大変な良作である証でしょう。

撃たれた鏑木が行方不明であることや、それを追ってマリアも行方をくらましていることからも、続編への布石はばっちり…。事件が終わってからの三年間についてや、攻略キャラクター以外のキャラクターの過去など、掘り下げられる話はいろいろあるはず!

ということで、Daisy2さん、期待してます!